萩原勝義 著 補筆・構成 萩原彰一
2009年8月15日(土)終戦記念日 刊行予定
2009年8月12日(水)からの配本開始を予定いたしております。
初版限定発売部数 300部
定価2,625円(本体価格2500円+税125円)
かくして卒業の日が近づくと、班対抗の競艇が行われる。辻堂の演習と同じ新兵の一大行事である。勝負に勝者だけいる訳はない。必ず敗者がいる。
負けたらどうなる。言わずもがな、凄まじい罰直と断食が待っている。
この日我が班はタッチの差で遅れを取り、総員向かい合ってアゴの洗礼を左右5発ずつ受け、頭が朦朧となったのを覚えている。
最後のイベントも終わり、カッター訓練も終止符を打った。
退団まで、あと幾日もないころ、新兵の外出が何時間か許される。
私は8班の室谷(ムロヤ)と2人、酒谷教班長の家に呼ばれた。室谷は班長と郷里が同じという事だった。
同じ分隊でも、班が違うとなかなかゆっくり話す機会もなく、お互い知ってはいても、ままにならぬが新兵さんよ。
2人は班長に渡されたメモを頼りに、班長宅に辿り着いた。
小柄な美しい奥さんの出迎えを受け、大いに恐縮した。
「今日は無礼講だ。大いに食べて話して帰れ。卒業して実施部隊に行けば、二度と3人会う事は無いだろうから、さあ食べて!」
と大きな応接台一杯に、乗り切れない程のご馳走を、食べて食べて、たらふく食べた。
話も大いに弾み、最後は殆ど鹿児島弁に成っていた。奥さんも鹿児島出身というので本当に楽しく過ごさせて貰いました。一生忘れることは出来ません。
班長夫妻に別れを告げて、玄関に出た時班長が、
「卒業後、俺の所に便りはするな。いつの日か偶然何処かで会えたら、その時は一緒に飲もう」
その日から私と室谷は無二の親友となり、卒業後同じ部隊に配属され、陰に日向に助け合って戦場を駆け巡って戦って来た。
思えば遠い昔の話だ。